第10回 古田秘馬

第10回 2008年10月9日

 

プレゼンター:

 古田秘馬(プロジェクトデザイナー)

 

タイトル:

 <プロジェクトデザイン論>

 

コメント:

 インテリアデザイン、プロダクトデザインなど、現在様々な"物"にデザインが必要なことはあたりまえになっています。

 同時に、その上位概念であるコンセプトやプロジェクト自体にもデザイン力が必要なのです。

 街づくり、空間作り、全てのものづくりは、"プロジェクト"でもあるのです。

 

レクチャーレビュー

<魅力ある人が魅力ある街をつくる>

 「若き挑戦者たち」という本が手元にある。1999 年に発行されたこの本の著者、古田さんは、当時24歳。僕がまだ世間のことなど何も分からず、大学でフラフラしている頃に、彼は、野口健に会い、長島一由 と語り、人生の意味や生きる目標のレベルをぐいぐいと引き上げていたわけである。この本を手にして、身にしみて感じるのは、そういう劣等感以上に、古田さ んの各インタビューにおける、同世代の人々への尊敬と親しみの念である。その文体には、若々しくもしっかりと確立された個性が漂っており、清々しい。この ような同世代のコミュニケーションのつながりが、彼の人生の大きな資産になっていることは間違いないと思う。そして少なからず、彼の人間としての魅力の形 成に役立っているはずである。古田さんが10年も前にやっていた試みを、たいへん遅ればせながら、僕は今頃になって、この会議を通じてやりたいと思ってい るのかも知れない。少なくとも、僕にとって古田さんと知り合えたことは、人生の大きな宝であり続けるだろう。このような同世代のネットワークを通じて、そ のムードを都市へ向けて開放していくことが、都市を楽しく、魅力的なものにすることに、少なからず役立つものではないかと、改めて心強く思った。

  古田さんの手がけるプロジェクトの魅力は、古田さんの人間としての魅力に他ならない。「街の活性化」と「魅力ある街」をつなぐのは「人」と「人のこころ」 だと話す古田さん自身の人間像と意思こそが、まさに魅力的で活力あるものだと強く感じた。彼の持つ感性や雰囲気が、そのまま都市へと拡張されているからこ そ、心から楽しく、誠実で、美味しい都市空間がそこに立ち現れているのだと思う。

 

<生活の魅力につむぐ>

  古田さんの公式に従えば、コンセプトに支えられたハードとソフトの連携こそが街の豊かさをつくるものである。ハードもソフトも既存の構成要素であることを 思うと(もちろんそのチョイスと再構築に技術はあるにしても)、コンセプトワークこそ古田さんのプロジェクトデザイナーとしての真骨頂であろう。

建 築家の青木淳は「原っぱ」と「遊園地」を比較し、「原っぱ」の自由さと「遊園地」の押し付けの楽しさにおいて、「原っぱ」の優位性を主張する。学生時代に 出会ったこの考えに僕は大きく影響を受けてきた。「ここで、こうすることが楽しいですよ」などと押し付けられる楽しさは、都市の魅力にとっては取るに足ら ない楽しみなのではないだろうか、都市とはもっと自由で、開かれていて、のびのびとした場所なのだと、そう思考しようとしてきた。

  しかし、現実にはどうだろうか?何も出来事の起こらない「原っぱ」は、やはりただの退屈な空き地に他ならないのである。いくら多目的広場や多目的ホールを 用意しても、目的がないことには多様な利用は起こりえない。古田さんの提供するプログラムは、現代社会の問題やニーズをつぶさに汲み取って、楽しく転換す るための仕掛けである。そこには決して、押し付けや白々しさが感じられない。コンセプトワークの難しさは、その意味の強靭さゆえに、いかに人々に受け入れ られるかという点にあるのだと思う。「やりたいことが先にあるわけではない」とおっしゃっていたとおり、古田さんのコンセプトが、人々を魅了し、共感を得 るのは、それが、生活やその土地のポテンシャルに素直に従っているからではないだろうか。その土地が持つ魅力を個々人の生活の魅力へつむぐという作業がコ ンセプトとして、分かりやすく人々にデリバリーされているというのが、プレゼンをお聞きして最も感銘を受けた点の一つである。関サバ・関アジのような地域 の物産品のブランディングなどではなく、街の魅力としての食文化の可能性という視点も、このような生活の発想から生まれる優れたコンセプトワークだと思 う。食べることも、オーケストラを聴くことも、優雅な朝を迎えることも、みな生活の、人生の一場面なのである。誰かのための広場や誰かのための都市ではな く、自分が楽しむための広場であり、自分の生活を豊かにするために都市がある。それが、人々の心に伝わることで、都市の何かが大きく一歩変わっていくブレ イクスルーの瞬間が見て取れる。

 

<はみ出そう!(体型の話ではありません)>

  古田さんの肩書きは、「プロジェクトデザイナー」ということになっている。彼の造語なのか市民権を得た職業なのかは定かではないが、これまでの職能の枠に 収まらない仕事であることは明白である。糸井重里は明らかに「コピーライター」の領域を超えているし、都市の分野で言えば、浅田孝の仕事は「建築家」のイ メージからは大きくはみ出すものである。僕も常々、既存の職業形態に収まらない職能を目指したいと思ってはいるが、これを成立させるのは非常に難しい。古 田さんの職能を成り立たせているのは、彼の洗練された提案と時代の需要であろうが、何より、彼自身のキャラクターがそれを成立させている大きな要因なのだ と思う。「教えられる仕事ではない」と話されたとおり、それは、まねをして学ぶ類の仕事ではないのかもしれない。しかし、時代が必要としている以上、この ような仕事は、どこかに位置づけられるはずである。願わくば、市民一人ひとりが、自らの人生や地域のデザイナーであるべきなのかも知れない。でもしばらく は、古田さんの能力に頼らざるを得なさそうである。既成概念を打ち破り、これまでの社会の成り立ちを見直すのは、なかなか簡単なことではない。人生の魅力 を引き出し、地域の魅力を引き出し、それらをつなぎ合わせて都市の魅力をつくる仕事をこれからも大いに期待しています。

 感動の多い人生はきっと楽しい。そしてそんな人生を過ごしている人々の集う都市は、もっと楽しい場になるはずである。

 できれば一度、どこかへ旅行にご一緒させて頂きたいものである。旨いものを食べ、地域の人の心に触れる旅の積み重ねが、古田さんの人生の縮図のようにも感じられる。古田さんが魅力的な人生を歩まれている限り、これからも数多くの魅力的な街が生まれていくはずである。