第06回 阿部大輔

第6回 2007年11月28日


プレゼンター:

 阿部 大輔(都市計画家・政策研究大学院大学)

タイトル:

 <「都市再生」再考:市街地の多孔質化と公共空間>

コメント:

 「都市再生」が謳われて久しい。しかし、大都市で展開されている大規模再開発は、新たな商業スポットを生み出しただけで、都市性の向上には貢献し ていないのではないだろうか。そこで「都市が再生する」ための条件を、欧州における都市再生のモデルとされるバルセロナを事例に考える。

レクチャーレビュー:

<Learning from Barcelona バルセロナから学ぶこと>
 ヴェンチューリがラスベガスから学ぶように、阿部さんはバ ルセロナから学ぶ。商業主義に支配されたラスベガスの建築と行政主導のパブリックスペース再編によるバルセロナの都市計画。両者の対象には差があるが、阿 部さんもヴェンチューリも、決して現状の表層的な断面を切り取って都市を分析するのではなく、その現象の歴史的・社会的背景を深く読み取り考察する。都市 から学ぶべき本質は、奥の深いものなのだと改めて認識させられる。
 阿部さんのバルセロナの解剖ぶりをお聞きしていて、デザインイメージ先行の都市再生に沸くバルセロナの雰囲気とは大きく異なる、ポストモダンならぬポスト都市再生ともよべる分析が印象的だった。

<都市空間の「アヒル」と「装飾された小屋」>
 ヴェンチューリはラスベガスの建築を「アヒル」と「装飾された小屋」に二分し、後者をポス トモダンのブレイクスルーと考えた。バルセロナの都市計画にこの分析を応用するなら、「アヒル」は商業空間における公的な空間づくり。形態は多様で空間的 なバリエーションは豊富だが、そこでのアクティビティは単調で商業主義に毒された公共空間。一方、「装飾された小屋」は、公共空間とカフェや市場などのア クティビティがマッチングされたスペース。空間性の特質よりはむしろ、多様なアクティビティをどんどん付加することによって魅力が増す公共空間づくり。と 言うような対比ができるかもしれない。
阿部さんは、商業空間によって生み出されるモールかされた公的空間を緊張感のない退屈なスペース(=アヒル)だと指摘し、行政によるアクティビティのきっかけづくり(=装飾)が初期の公共空間のマネジメントには重要だと言う。

<都市空間での感性を取り戻す>
 2歳半になる息子とまちを歩くと普段とは違った感覚で都市を体験することができる。それは、信号という単 純なルールのみが車と歩行者の接触をさけているという当たり前の事実や、通りすがりのおばさんの表情が醸し出す親近感、くわえタバコの青年とすれ違うとき の警戒心など、都市で他者(や車)と接触するということがいかに多様な感性を潜在させているかということである。僕たちはいつの間にかこのような感覚を鈍 化させ、当然のルールと思い込みながら生活をしている。そこに漂う雰囲気は、安心感というよりはむしろ、感性の鈍化による無関心が現れているのだと思う。
 阿部さんが指摘するように、都市に適度な緊張感が存在することが、本来感じていたはずの高密な都市生活における感性を取り戻し、他者とのコミュニケーションの様々な可能性を再帰するかもしれない。

<「継続的なプロセスとしての都市の発展」>
 市民が都市に対する意識を敏感にするだけで、都市は大いに変わりえる可能性を秘めている。し かし、そう思っている市民は皆無だろうし、そう思わせるための手立ても少なそうである。そのために重要なのは、消費されつくされない空間とそこでのアク ティビティのマッチングであろう。幸福な都市の生活像を描くことができ、それを支える場所が確保されていれば、市民の意識も変わってくるはずである。消費 空間で消費させられていては発展は望めないし、ましてや消費させられているとは思っていない幸福感に満ちているようではなおさらである。市民が自らのこと として都市を考え、都市に参加していくことを可能にする仕組が求められている。もしかすると、これは制度ではなくムードの問題なのかもしれない。市民に対 する正しい情報の提供と望めば変わるということの小さくても目に見える事象の積み重ねが都市を大きく変えていく。不断の教育的な取り組みやできることから 変化させていくという姿勢がユルバニスムの語源たる「継続的なプロセスとしての都市の発展」を可能にするのだと教えていただいた。
 このようなこ とを扇動する専門家を名乗るためには、自らがどれだけ都市で豊かな時間を過ごすことができているかが問われるようにいつも思う。阿部さんは、バルセロナで 様々な豊かな時間を過ごされてきたのではないだろうか。今後は日本で、ぜひ幸福な都市のアクティビティを体感する機会にご一緒させていただければと思う。 また阿部さんは、専門家の政治への参加も必要だと指摘する。くしくもご自身が所属される政策研究大学院大学において都市計画はマイナーな存在だと話されて いたが、ぜひとも都市計画を政策の中枢に据えて、市民による都市の自治として政治がなされる社会が実現されるよう、阿部さんの都市政治家としての働きかけ にも期待をしたい。